終蹴石(フィンケルシュタイン)’s blog

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本レビュー: 和田純夫 今度こそわかる 重力理論 <一般相対論の入門書と見せかけてかなり先端的なことまで概観させてくれるワクワクの書>

和田純夫 「今度こそわかる 重力理論」(講談社 2018)

一般相対論の入門書と見せかけてかなり先端的なことまで概観させてくれるワクワクの書 一般相対論の構造を現在的な視点からはどう評価するか?

評価: ★★★★★
今度こそわかる重力理論 (今度こそわかるシリーズ) | 和田 純夫 |本 | 通販 | Amazon
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Kindle版有り

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構成: 入門書(前半) + 先端研究の紹介(後半)
一般相対論の現在的なポジションが把握できる!
 
前半は電磁場の扱いも含め特殊相対論を整理し直し、一般相対論、球対称時空解/ブラックホール重力波の説明と続けており、わかりやすそうな記述スタイル。
・特徴は、電磁場の作用から変分原理による電磁場の方程式の定式化を説明した後、同じ論法で重力の作用からアインシュタイン方程式を定式化するという点。非常にスマートな印象。
 
後半は、著者の趣味丸出しのような印象。重力の理論をテンソル場の理論として理解して他の力と同列のものとして扱おうという流れで説明。ホイーラー-ドウィット方程式、ホーキングの無境界条件仮説にまで説明が及びビックリ。初めてまともな説明を読んで感激。その後、量子化の話、修正重力理論から最近の話題までと続く。
私は理解できていないので、そのシナリオだけを抜き書きすると。
 

・重力のテンソル理論(非幾何学的発想)

これは、ファインマンの昔の講義での、重力を平らな時空でのテンソル場の理論として定式化するという試みをベースにして説明。
無矛盾な理論を構築でき、一般相対論と同じ結果を導けるが、正解を知っていなければできなかっただろうと邪推されるほど込み入った計算となる。
ファインマン講義重力の理論 | モリニーゴ, ワーグナー, 純夫, 和田, ファインマン, ハットフィールド |本 | 通販 | Amazon
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・正準形式

正準形式で、一般相対論の構造を計量の時間発展として見直すと共に、量子論への架け橋とする。
正準理論のつじつまが合っているという条件から拘束条件が導かれる ⇒ 電磁場でゲージ普遍性・拘束条件・first order formalismを説明 ⇒ 一般相対論の正準形式で拘束条件(エネルギー拘束条件と運動量拘束条件) ⇒ 重力源が有る場合 ⇒ 宇宙波動関数 ⇒ ホイーラー-ドウィット方程式(エネルギー拘束条件の量子版)
 

・一様等方宇宙論・一様等方量子宇宙論

宇宙原理、ロバートソン-ウォーカー計量、フリードマン宇宙、加速膨張、宇宙定数、ダークエネルギーダークマターなどを一通り説明した後、議論は量子宇宙論に移り、宇宙波動関数からどのように常識的な宇宙像を導くかの説明。
時間発展しない宇宙波動関数に時間を算出するための自由度を導入し、WKB近似で通常のシュレディンガー方程式を得る。 ⇒ 虚数時間の理論へ(宇宙初期のインフィレーションをの発生メカニズムを考える中で提案されたホーキングの無境界条件仮説: 特異点が無くなる) 虚時間
 

量子論と実効理論

電磁場での繰り込み ⇒ 重力場での繰り込み(作用に微分が4次の項を加えれば繰り込みは可能) ⇒ オストログラツキーの定理(高階微分を含むと、運動エネルギーが負にな り得て全体エネルギーがいくらでも減らせて不安定となる不都合な自由度(ゴースト)を導入することになる)  ⇒ 不安定性のない一般相対論の量子版は作れない ⇒ 実効理論: 一般相対論は高階微分の補正項も加えれば、プランクスケールよりも低エネルギーでの実効理論として、整合性のある量子版ができる。
 

スカラーテンソル理論/修正重力理論

一般相対論が重力の最終的な理論とは思えない。プランクスケール未満でも一般相対論の拡張を考えたくなる。
動機: 量子化超弦理論の実効理論ではスカラー場が必要、不自然なほど小さい宇宙項への対策
修正重力理論をいくつか紹介: ブランス-ディッケ理論、PPNパラメータ、f(R)理論、非局所重力モデル
 

・有質量重力理論(2010年頃の状況とその後の進展)

重力場を(微小な)質量を持った場として、宇宙項なしで加速膨張宇宙を説明する試み。
現実的な宇宙論を展開するまでには至っていないが、宇宙項なしで加速膨張宇宙を導けたというのは画期的なことだと。今後の発展に期待。
 
説明のアプローチ:
一般に物理の本では、理解してもらうために2通りのアプローチがある。
① 数式の展開をフォローしてもらい理解を促す
② 概念や意味をていねいに記述し、わかり難い/勘違いしやすいポイントを強調して理解を促す
昔の物理の本は、①がほとんどで、大事なことは行間ならぬ式間から読み取れという勢いのものが多かった。
最近は、②がかなり考慮されている本が増えてきてありがたい。
本書は、②に重きを置いた本で、数式の記載もすごく気を遣って簡潔にし、すごく読みやすい。見やすいページレイアウトでもある。ページレイアウトは、本の内容とは関係ないとはいえ、その本が気に入るかどうかには重要。後半部については、私のレベルでは数式を追うこと自体を諦めてしまうが、全体として著者が伝えたかったことは、十分なクオリアを持って感じとれた。
 
個人的に見どころだったのは:
・私の目当てであったフィンケルシュタイン座標系の部分は、他の本よりもていねいに説明されているが、まだ納得できるところまではいっていない。クルスカル-スゼッケル座標系やホワイトホールまでの説明は、なぜかどの本でも駆け足で流していくので、正しいイメージを掴むのが難しいというのが私の実感。
・一般相対論の構造を現在的な視点からはどう評価するのか、というのをまとまった形で読むことができ、自分的には非常にスリリングであった。こういう相場感的なものは専門家の間では常識に近いものなのだろうが、一般人がそれを把握するのは非常に難しい。
・2018年に出版された本であり、けっこう最近の成果まで説明されている。
・かなり専門的な本に当たらないと出てこないような事項までが分かりやすく紹介されており、見通しが開ける。
・疑問なのは、書名にある「今度こそわかる」ってのは、どういう人に対して言ってるのか? が、かなり謎。
 
 
キーワード: 一般相対性理論、重力理論、シュヴァルツシルト時空、ブラックホールフィンケルシュタイン座標系、クルスカル図、正準形式、宇宙波動関数、ホイーラー-ドウィット方程式、量子宇宙論虚数時間、ホーキングの無境界条件仮説、くりこみ、ゴースト、実効理論、スカラーテンソル理論、修正重力理論、有質量重力理論、加速膨張宇宙