終蹴石(フィンケルシュタイン)’s blog

徒然なるままに趣を感じるモノについてログるなり!

◆ブラックホールを正しく理解する◆

Myブログ始動なり。

とりあえず、興味の赴くままに書いてみる。

今の興味: ブラックホール、インフレーションvsサイクリック宇宙モデル、エントロピー、ヒッグス場、VR/AR、機械学習、意識、初期仏教 など。

 

今回は、ここ数年で一番良かった本で、前からレビュー書こうと思いつつ放置してたコレ!

キップ・ソーン 「ブラックホールと時空の歪み アインシュタインのとんでもない遺産」

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評価: ★★★★★  for しっかり考え方を理解したい人・時間のある人

評価: ★★☆☆☆  for 浅くて良いからてっとり早く結論だけ知りたい人・時間のない人

キップ・ソーンは、相対論が専門の理論物理学者で、LIGOでの重力波直接観測でノーベル賞受賞者の1人。

 


この本をひとことで表すと、
数式なしでブラックホールを「正しく」把握できる凄い本、ただし「お手軽に」ではない
私はこの本によって、最近の進展についての情報を正しく把握でき、持て余していたペンローズの本なども取りかかれるようになった。

 
この本の魅力:

・本質
ブラックホール」がどんなものなのか、お話しレベルの説明でお茶を濁すのではなく、物理的なイメージを正しく得られたと確信できるような内容となっている。


・納得
1994年までの、歴史的な紆余曲折をソーン自身の実体験も含めてスリリングな描写で魅せる。科学者たちの知的格闘の記録でもある。当時の第一級の物理学者たちでもブラックホールという概念をスンナリとは受け入れられなかったという状況が実感できる。
ホーキング放射が1974年、重力波検出のLIGOプロジェクトが1984年、ホーキングが白鳥座X-1がブラックホールであると(賭けの負けを)認めたのが1990年、ホーキングの時間順序保護仮説が1991年なので、重要なイベントはカバーされており、この本で本質を理解していればその後の展開を理解するのは容易。


・描像
読みやすく、わかりやすい記述。しかも話が面白い。物理的なイメージを与えることを重視(描像という言葉で表現)している。数式なしで文章と図で正確なイメージを伝える記述は凄いのひとこと。
あと、魅力なのか微妙だが、本が立派で、ハリーポッターの単行本ような感じの装丁。持ち歩いて読むのには不便。Kindle版が欲しいところだが、日本語版は無い。


・発展性
わかりやすい本文だけでなく、注釈、用語集、年表、文献リストが整備されている。特に文献リストには、キーとなる論文が載っており、この本をロードマップとして原典に当たっていくことができるようになっている。最近はネットで入手できる論文も多く、ディープに楽しめる。こういう本を出版できることに、アメリカの底力を感じる。


・ソーンの経験
彼がリアルタイムに経験したことや、直に話をしたりしたことを生々しい筆致で伝えてくれる。特に重力波LIGOプロジェクトの起動)、ワームホールを使ったタイムマシンのエピソードは本書の白眉。2015年に初めて重力波の直接観察がLIGOで達成されたが、本書には2007年ごろを想定した重力波観測の予測シーンが描かれており実際の観測シーンと比べてみると面白い。
タイムマシンの研究は、物理学者が真面目に考察したタイムマシンということで世間的にも物議をかもした事件となり、ホーキングが時間順序保護仮説を出し、またホーキングとの賭けをしている。
最近気付いたのだが本書の原題は、
BLACK HOLES & TIME WARPS   Einstein‘s Outrageous Legacy
であり、邦題は「時空の歪み」となっているが、原題は「TIME WARPS 」である。


・物理研究の進め方
特に、ホイーラー、ゼリドヴィッチ、サイアマの3指導者の流儀のちがいなど興味深い。
欧米と旧ソ連の研究体制の違いの解説は貴重。
物理の考え方をいろんな面から教えてくれる。

 

 


おまけ(本書の内容):

アインシュタイン、ミンコフスキー、
チャンドラセカールvsエディントン、
ツヴィッキー/ランダウオッペンハイマー/ホイーラー/ゼリドヴィッチ/サイアマ、
電波銀河/クェーサー/巨大ブラックホール
LIGO(重力波観測プロジェクト)、
メンブレンパラダイム
ブラックホールエントロピーブラックホールの蒸発(ホーキング放射)、
ペンローズ特異点定理、
ワームホール、エキゾチック物質、タイムマシン、時間順序保護仮説

 


この本読んで齧ってみたくなった論文:

・1939 オッペンハイマー-スナイダーの論文。爆縮する星が外部の時空から切り取られること、外から見たら地平で凍結したいるように見え、表面から見たらそうではないことを示した。
・1958 フィンケルシュタイン基準系の論文。オッペンハイマー-スナイダーのパラドックスを解決。
・1964 ペンローズ特異点定理の論文
・1974 ホーキング放射の論文